大学の教育・研究の今

《若手研究者から高校生へのメッセージ》

火星研究者、青木翔平先生の外国語習得法

東京大学大学院 新領域創成科学研究科・講師 青木 翔平 先生 東京大学大学院 新領域創成科学研究科・講師 青木 翔平 先生

~Profile~
東北大学理学部卒業、東北大学理学研究科博士課程修了。イタリア宇宙科学研究所(INAF/IAPS)博士研究員、ベルギー王立宇宙科学研究所(IASB/BIRA)博士研究員、リエージュ大学(ULiège)ベルギー国立科学研究基金研究員、宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所プロジェクト研究員を経て、2022年4月より東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻講師。令和3年東京大学卓越研究員(公募型)。國學院久我山高等学校出身。
京都大学大学院 農学研究科・助教 白石 晃將 先生京都大学大学院 農学研究科・助教 白石 晃將 先生

~Profile~
2012年京都大学農学部卒業、2014年京都大学大学院農学研究科修士課程修了。修士課程在籍時、日本国際協力機構(JICA)を通じて短期青年海外協力隊としてバングラデシュに派遣。2015-2016年国連食糧農業機関(FAO)でのインターン及び2016-2017年日本学術振興会特別研究員を経て、2017 年に京都大学大学院農学研究科から博士号(農学)を取得。また、同年京都大学大学院思修館プログラム修了。同大学院博士課程修了後、2017-2018年外務事務官として外務省経済局経済安全保障課に勤務。2018-2020年FAOジュニア専門官、2020-2021年FAO食品安全専門官を経て、2021年1月より京都大学大学院農学研究科助教、現在に至る。

「かつて火星に存在した水はどこへ失われたのか?」 「生命が存在できる惑星大気環境が維持される仕組みは?」 ――このような謎の解明を追求するのは 東京大学大学院新領域創成科学研究科・講師の青木翔平先生。 惑星科学・天文学分野と火星研究の魅力、イタリアからベルギーへ、 そして日本へと、国をまたいだ研究の意義、将来展望などについて、 京都大学大学院農学研究科・助教の白石晃將先生に聞いて頂きました。 高校生や大学生、未来の研究者に向けたメッセージもいただいています。


©JAXA/火星衛星探査計画MMX

一番身近な惑星、火星 惑星科学・天文学分野と火星研究の魅力


学問研究の今

白石:最初に、なぜ惑星科学・天文学分野、中でも火星に興味を持ったのか教えてください。

青木:高校生の時、宇宙の謎に迫るNHKのドキュメンタリー番組を見たのがきっかけです。番組では、数ある惑星の中でも火星について特集されていました。生命の存在可能性や惑星環境の進化などに関する研究者の説明を聞き、非常にワクワクしたことを覚えています。大学受験では、「天文学」をキーワードにインターネットなどで検索し、天文学科のある東北大学理学部を志望しました。進学後に、火星について学べるのは宇宙地球物理学科であることを知り、配属時に選択しました。

白石:そんな火星の魅力とは?

青木:惑星は大きく分けて木星型惑星と地球型惑星に大別できます。木星型惑星は、主に水素とヘリウムから構成されていて、ガス惑星とも呼ばれます。太陽系では木星と土星などが該当しますが、大部分が気体でできているため人が降り立つことは難しいです。一方、地球型惑星は、固体惑星とも言われ、地表面と大気が存在し、生命の存在や、遠い将来には人類が移住できる可能性があります。私たちの太陽系では金星、地球、火星がその代表例です。中でも火星は、過去や現在に生命が存在した可能性があり、生命が存在できる惑星環境が形成・維持された謎に迫ることができるのが大きな魅力です。火星の大気は地球の0.6%ほどしかありませんが、地表温度がおおよそ-70℃から+30℃と地球に近く、太陽系惑星の中でも環境が地球に一番似ていますし、遠い将来、火星を温暖化させることで人間が移住できるのではないかとも考えられています。

話題の系外惑星研究※への応用
※私たちの太陽系の外にある、遠い恒星の回りに存在する惑星。


白石:なるほど…他にはどうでしょう?

青木:近年、私たちの太陽系の外に「第二の地球を探す」観測研究が盛んで、候補となる惑星が続々と見つかっています。また最近では、アメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により、これまでとは比べ物にならないほど詳細かつ遠くの天体画像が公開されるようになり、第二の地球発見への期待が膨らんでいます。ただ、系外惑星における地球型大気の観測は、現時点では非常に難しいです。そこで、私たちの太陽系にある火星や金星などの地球型惑星を詳しく調べ、それをもとに、太陽系の外にある地球型惑星の大気の成分や、その成り立ちを理解するのに役立てようとしています。

火星の太古の水はどのように消えたのか?火星の大気の観測から迫る


白石:具体的な研究テーマ、その方法、アプローチについてもお聞かせください。

青木:現在、取り組んでいる研究テーマの一つは、火星からなぜ水が失われたか、そしてそれがどこへ消えたかの謎の解明です。これまでのところ火星表面には、水の存在なしには形成されない鉱物や地形がたくさん見つかっています。そのため火星は、かつては現在の地球のように温暖で湿潤な気候で、大量の液体の水が地表面に存在した時代があり、40億年前までは地球のように海があったとも推測されています。しかし現在の火星は、薄い二酸化炭素大気に覆われた寒冷乾燥気候となっていて液体の水はなく、大気の水蒸気や極域の氷がわずかに見つかっているだけです。では、かつて大量に存在した水はどこへ行ったのか。多くの科学者は、ある程度の水が宇宙空間に放出されたと考えていますが、それはどのように宇宙空間へ輸送されていったのか、私はそのプロセスを観測データから明らかにしようとしています。一般的に、火星を含めた惑星大気研究は、①理論的計算による数値シミュレーション、②人工衛星などに乗せる観測装置の新規開発、③大型望遠鏡や観測機で取得したデータの解析、といったアプローチがあります。どれも重要で、各々のプロフェッショナルが協力して研究を進めています。私は③の専門家で、水に代表される火星大気の成分の観測を通して、生命が存在できるような惑星の環境はどのように維持されるのかを理解したいと考えています。

現在に至る研究の軌跡 大学院卒業後は、より良い環境を求めてイタリアとベルギーへ


ベルギーでは王立科学アカデミー「バロン・ニコレ賞」を受賞

白石:火星に関する研究を、日本だけでなくイタリア、ベルギーでもされていたようですね。具体的な研究内容とキャリアについて聞かせていただけますか。

青木:海外へ拠点を移して研究を行うことを考え始めたのは2012-2013年頃だったと思います。博士課程に在学していた頃は、望遠鏡で用いる観測装置の開発や、世界最大級の日本の望遠鏡であるすばる望遠鏡の火星観測データを用いて研究していました。しかし、惑星探査機により取得されたデータをもっと深く解析してみたいと思うようにもなりました。当時日本では「のぞみ」や「あかつき」といった惑星探査機が打ち上げられてはいたものの、惑星軌道へは到達しておらず、そのデータは手元で使える状態ではありませんでした。そこで、既に惑星探査機の軌道到達に成功している海外に出る必要があると考え、欧米の大学や研究機関の中からイタリア宇宙科学研究所(INAF/IAPS)を博士課程修了後の進路先として選びました。そこでは、「マーズ・エクスプレス」(欧州の火星探査機で、2004年から火星軌道で観測を行っている)プロジェクトチームの一員として、大気の温度・組成・エアロゾル量など、火星の気候を調べました。その間に、ベルギーでは火星の大気をより精密に観測するための新たな観測装置の開発が進み、2016年3月には「トレース・ガス・オービター」(欧州とロシアが共同で進める火星探査ミッション、「エクソマーズ」の一環)という新たな火星探査機が打ち上げられたとの情報を受け、2016年秋にベルギー王立宇宙科学研究所に拠点を移しました。ここで、火星の水蒸気の鉛直高度分布を詳細に調べて、水が宇宙へ消失していく過程の一端を明らかにすることができたのです。

白石:それでベルギー王立科学アカデミーからバロン・ニコレ賞を受賞されたんですね。

青木:はい。1998年に創設された惑星科学・超高層大気研究の分野で、特に優れた国際的な若手研究者に贈られるベルギー王国の伝統的な賞です。

白石:火星をはじめ惑星科学分野の研究では多くの研究者が関わって一つのプロジェクトが進められると聞きました。なぜ青木先生だけが受賞されたのでしょうか。

青木:多くの場合、惑星科学分野の研究では、人工衛星を作るエンジニアから、データを取得し解析する研究者など50人以上が関わります。ただ、取得したデータの解析やその解釈が、ミッションの科学目標を明らかにするための最後の仕上げ作業として、やはり重要ということだと思います。加えて、プロジェクトを通じてチームワークへの貢献度の高さなども加味していただけたものと理解しています。もちろん今も、その装置で得られた観測データの解析は続けています。

チリ・アタカマ砂漠のALMA望遠鏡の前で

日本の火星探査計画に貢献したい!


白石:日本へ戻られたきっかけは?

青木:ベルギーでの研究を進める中、日本の火星衛星探査計画(MMX)を知りました。MMX(Martian Moons eXploration)は、世界初の火星衛星サンプルリターンミッションで、火星の月である「フォボス」からサンプルを携えて地球に帰還する計画です。2024年が打ち上げ予定で、このプロジェクトにどうしても携わりたいと考えていたところ、2021年4月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)のMMXプロジェクト研究員として採用していただきました。そして縁あって2022年4月からは、MMXプロジェクトの火星観測を主導されている東京大学の今村教授と同じグループで研究室を開設しました。MMXにより打ち上げられる衛星は、気象衛星ひまわりのように火星の赤道面を回ることで連続的に火星を撮影することができ、詳細な気象観測ができる点で非常に優れています。また、隕石の衝突などによって火星から舞い上がったチリもフォボスから採取するサンプルに含まれていると考えられていますので、それを解析すれば生命の痕跡(死骸)が見つかるのではと、今からワクワクしています。

なぜ研究の道に、その面白さと苦労


研究のきっかけと将来展望

白石:日本、イタリア、ベルギー、そして日本へと、最適な研究環境を求め続けてこられていますが、そもそもいつ頃から研究者を目指すようになったのですか。

青木:最初にお話しした通り、高校時代にNHKの特集番組を見てからです。大学院修士課程では、一般企業での就職も考えましたが、「未知の事柄を世界で初めて知ることのできる喜び」や、「真実を科学的に検証する面白さ」を《味わい続けたい》と、研究者の道を目指しました。

白石:「世界で初めて知る」というのは確かに大きな魅力ですよね。一方で難しさも?

青木:惑星科学分野の研究では多くの研究者が一つのプロジェクトに関わりますので、様々なノウハウを共有できるメリットもある一方、テーマの奪い合いや連携ミスが起こってしまうという難しさもあります。あらためて「コミュニケーション」の重要性を再認識するとともに、常にチームのメンバーと情報を共有しながら相互理解を深め、研究を推進することに努めています。

白石:チームで働くことの良さと難しさですよね。最後に、研究の将来展望について教えてください。

青木:火星だけでなく他の惑星研究にも共通して言えることだと思いますが、観測技術の進展で観測精度が上がり、大気や表層環境、生命の起源などについて、これまでにない新たな情報が得られると期待されています。今は、広く地球型惑星に興味を持っているため、火星だけではなく金星の研究も少しずつ進めています。金星も初期には豊富な水が存在していましたが、火星同様、宇宙空間へ失われた可能性が指摘されています。金星は火星と異なり、観測データは豊富ではありませんが、灼熱の惑星であることから、急激な気温の上昇による温室効果が起こったという説が有力です。2030年前後にはヨーロッパやアメリカが相次いで金星探査機を打ち上げることが決まっていますから、それらのプロジェクトにも貢献したいと考えています。その先は、太陽系研究の知識をベースに、系外の地球型惑星の研究へと幅を広げていきたいと考えています。

高校生や大学生へのメッセージ


白石:最後に、高校生や大学生、未来の研究者にメッセージをお願いします。

青木:「こうなりたい、これがしたい」という気持ちを大切にして、その瞬間を逃さずに行動することが将来の道を開くカギになると思います。私の場合は高校生の時、NHKの火星特集番組を見た後にインターネットなどで情報を読み漁り、将来の展望を想い描いていました。同じような瞬間がいつ、どのような時にみなさんに訪れるのかはわかりませんし、それはおそらく、一人ひとり違うと思いますが、その瞬間に向けて準備をすることが大事だと思います。興味を持ったものがあれば、自分で訪れてみる、それについて先輩に話を聞く、本やインターネットから情報を得るなど、機会ときっかけを活かすことです。また、将来を想い描くのに時間を惜しまないことも大切ですね。ちなみに惑星科学・天文学分野に興味のある方にですが、惑星探査で採られたデータは、原則、半年後には公開すべきだとされていますから、誰でも見ることができます。例えば、NASAのプラネタリデータシステム(https://pds.nasa.gov/)では、難しいデータ以外にも、惑星探査機に搭載されたカメラで撮られた画像などを見ることができるのでお薦めです。

青木先生の外国語習得法

 私は、仕事では主に英語を使っていました。中学、高校、さらには大学でも英語を学ぶ日本人であれば基本的な知識は身についていると思うので、後は慣れだと思います。私の場合は、「日本語を使用することができない環境」に身を置いたことで、コミュニケーションを取るには英語を話すしかなくなり、徐々に会話や議論ができるようになりました。帰国後も毎週英語で行われる会議に出席するなど語学力を低下させない努力をしています。

 一つ重要なポイントがあるとすれば、それは「人の発言を聞き真似ること」です。話し言葉特有の表現などは特に、ネイティブスピーカーなどが使うフレーズを真似て使うことで自分のものにしていきました。

 英語以外では、イタリア語は話せますが、ベルギーで話されるフランス語やオランダ語はほとんど話せません。イタリア滞在時は、語学学校にも通い、日常会話の習得に努めました。英語と同様、最初はネイティブの発言を聴くことに集中し、だんだんと使えるようになりました。イタリア人は非常に大きな声で話すので集中しなくても自然と耳に入ってきます(笑)。一方、ベルギーではフランス語を教える学校にも通いましたが、公用語が英語で日常会話も自然と英語になり、フランス語の習得には至りませんでした。やはり、その言語に身を置く環境を自分で作ることが重要なのかなと思います。

ベルギー王立宇宙科学研究所にて

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