進路のヒント

《進路のヒント》

アフリカ及び日本における食料安全保障の最前線 ポストコロナを見据えて、私たちはどう変わる?どう変わらなくてはならないのか?

2019年末頃から大流行している新型コロナウイルスは、生命・健康を直接的に脅かすのみならず、感染拡大防止策として人の移動・接触の制限が求められることから、世界中の人々の生活・社会活動に大きな影響を与えている。最も基本的かつ重要な国の責務である食料の安定供給も、世界各地でその不安が拭い去れない状況が続く。国連(UN)専門機関の国連食糧農業機関(FAO)及び世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)などは、新型コロナウイルスの感染拡大防止策が原因で起こり得る食料不足を避けるには世界各国が協力することが必要だと訴え続けている。一方、2021年初旬よりワクチン接種が急速に進められ、ポストコロナを想定した政策立案、経済活動、研究及び教育活動も始められている。こうした中、安全で栄養価のある食料を安定的に供給するため、われわれ国民一人ひとりはどのように行動すべきか、また日本に求められている国際貢献とは何か。2013年から約7年間にわたり、FAO駐日連絡事務所長として日本及びFAOの関係強化に尽力し、名古屋大大学院で博士号を取得するなど日本の食料安全保障事情にも見識の深いンブリ・チャールズ・ボリコ氏に、FAOでの勤務を経験し、この春から京都大学大学院で助教として勤める白石晃將さんが話を聞いてくれました。

ンブリ・チャールズ・ボリコ 氏国連食糧農業機関(FAO)マダガスカル事務所代表 ンブリ・チャールズ・ボリコ 氏 Mbuli Charles Boliko
~Profile~
コンゴ民主共和国出身、キサンガニ大学で学士(心理学)及び修士(産業心理学)取得。キンシャサの商科大学で3年間教鞭を執った後、1990年に来日。名古屋大学大学院国際開発研究科より国際開発論で博士号を取得。時に自らをmade in JAPANと語る。1997年よりFAOに勤務。1998年からNY連絡事務所、2003年より事務局長官房付としてローマ本部に赴任し、2009年からは人事部雇用・配属担当チーフ。2013年にFAO駐日連絡事務所初の外国人所長として着任し、約7年間にわたり日本及びFAOの関係強化に尽力。2020年9月にマダガスカル事務所代表に着任、現在に至る。母国コンゴ民主共和国・カトリック大学の客員教授として、人事管理及び行政・開発についても指導する。
白石 晃將 氏京都大学 大学院農学研究科 助教 白石 晃將 氏
~Profile~
2012年京都大学農学部卒業、2014年京都大学大学院農学研究科修士課程修了。修士課程在籍時、日本国際協力機構(JICA)を通じて短期青年海外協力隊としてバングラデシュでボランティア活動を経験。2015-2016年FAOでインターン、2016-2017年日本学術振興会特別研究員を経て、2017年に京都大学大学院農学研究科から博士号(農学)を取得。また、同年京都大学大学院思修館プログラム修了。同大学院博士課程修了後、2017-2018年外務事務官として外務省経済局経済安全保障課に勤務。2018-2020年FAOジュニア専門官、2020-2021年FAO食品安全専門官を経て、2021年1月より京都大学大学院農学研究科助教、現在に至る。岐阜県立多治見北高等学校出身。

アフリカ諸国の新型コロナウイルス事情

白石:ジョンズホプキンス大学の統計によると、2021年5月24日現在、世界では、累計での感染者数及び死者数がそれぞれ約1.67憶、346万人となっており、未だ新たな感染者数も60万人を超えている。日本でもこのところ新規感染者数が4千人程で推移しており、東京を含めた大都市で緊急事態宣言の延長が決定された。アフリカ全土は少し広すぎるかもしれないが、所轄しているコモロ、マダガスカル、モーリシャス及びセーシェルでの状況を教えて欲しい。

ボリコ:4か国中、貧困度の高い国※として分類されるコモロ及びマダガスカル両国では、新型コロナウイルスに関する統計データの収集が非常に遅れており、政府が発表した情報にも、信頼性の欠けるものが多い。正確な感染者数や死者数は分からないというのが実際のところだが、2020年9月に着任した頃と比較し、肌感覚としては状況は酷くなっていると思う。当時はほとんどいなかったが、今ではマダガスカル事務所のスタッフやその家族を含め感染者が出ている。数字上、累計感染者数は、マダガスカルで約4万人(全人口約2700万人)、コモロで約4千人(同約85万人)ではあるが、実際の感染者数はその4-5倍いてもおかしくはない。また、医療体制が脆弱であるため、これ以上感染者数が上昇すれば、医療が崩壊し、非感染性疾患(Non-Communicable Diseases: NCDs)など他の病気への対応にも甚大な被害が及ぶ可能性が高い。一方、モーリシャス及びセーシェルではワクチン接種も始まり、感染者への対応も順を追って行われている。しかし最近、重要な収入源である観光産業を再開し、海外からの観光客を受け入れたことで国内の感染者数は再び増加に転じた。国際交通網の発達により、地球全体が一つの村のように捉えられるようになった現在、自国だけ感染者を抑えるのは不可能であり、隣国と協力しつつ、地域・世界全体として感染拡大の抑制に尽力することが大切である。

白石:コモロ及びマダガスカルのワクチン接種状況はどうか。

ボリコ:両国では、主に政治的な理由によりワクチン接種はまだ始まっていない。FAOを含めた国連機関職員については、個々の組織で調達したワクチン接種は許可されており、FAOマダガスカル事務所では、6月上旬からワクチン接種を開始する予定である。恐らく、マダガスカル政府は、国連諸機関が使用したワクチンの効果を見て、自国国民への提供を決定すると推測される。コモロについては、ワクチンの取得自体は可能であったと把握している。しかしソーシャルメディアによる誤った情報拡散や政治的な圧力により、同国政府がワクチン接種を始められずにいる。信頼のおける情報源からの科学的証拠に基づき、各国政府が適切な意思決定をすることを望む。

※世界銀行はアトラス方式を用いて計算された1人当たりの国民総所得(GNI)に基づき、世界の国と地域を4つの所得グループ、高所得国、中・高所得国、低・中所得国、低所得国に分類している。2020年発表の最新分類によると、コモロ、マダガスカル、モーリシャス及びセーシェルはそれぞれ、低・中所得国、低所得国、高所得国及び高所得国に分類される。

コロナ禍・ポストコロナにおけるアフリカの食料安全保障

白石:次に、コロナ禍・ポストコロナにおけるアフリカの食料安全保障事情について教えて欲しい。

ボリコ:世界人口が増大する中、アフリカ諸国全体では、2005年から10年間にわたり、飢餓人口が減少していたが、気候変動・紛争・経済停滞などの影響で、2014/2015年頃から同人口は増加に転じた。その中で、新型コロナウイルスの大流行が起こったため、アフリカ諸国の食料安全保障は非常に厳しい状況にある。特に、より脆弱な家庭への影響が大きく、入手できる食料が少なくなっているなどの問題が起きている。また、入手できたとしても安全性・栄養価に問題のある食料も出回っており、地域・世界全体で協力し、食料安全保障問題に立ち向かうことが重要である。統計データを見ると、アフリカ諸国全体では、食料価格が38%上昇し、主食の一部であるとうもろこしについては80%も上昇している国があり、需要と供給のバランスが崩れているのが良くわかる。しかしヒトやモノの動きが制限されている現在、生産者側の中には、生産した食料をスーパーやレストランなどに卸せない農家もあり、食料廃棄物が増えているというなんとも異常な状態にある。

現在急務のアフリカの食料安全保障問題の解決

白石:新型コロナウイルスの大流行で食料安全保障が非常に難しい状況にあることは理解できた。そのために解決すべき課題は様々に存在するとは思うが、中でも最も急務なのは何だろう。FAO勤務中は、アフリカ東部を発生源として始まったサバクトビバッタの大発生による壊滅的な食害が、緊急の課題とされていたのを覚えている。

ボリコ:現在、サバクトビバッタによる食害は、アフリカ全土約23か国に広がっている。マダガスカルについては、2014年から2017年にかけて行われたプロジェクトで成果が出ていたが、プロジェクト終焉とともに、バッタ大量発生の問題が再び顕在化している。新型コロナウイルスの大流行によりヒトとモノの移動が制限されたことで、この問題への対応が後手に回っている。モロッコなど経験豊富な国から他のアフリカ諸国への情報提供や援助が期待される。また、チョウ目の害虫であるFall armyworm(ツマジロクサヨトウ)の爆発的拡散も、農業生産に深刻な影響を及ぼしている。マダガスカルでは、生産されるトウモロコシ全体の約53%が食害にあっており、早急な対応が叫ばれているが、農薬を積んだ船や飛行機が到着しないなどその遅れが生じている。また、気候変動による影響から南マダガスカルでは2019年以降、降水量が減少し、干ばつの被害が大きく、2021年は食料生産が約60%低下すると推測されている。その他にも、動物の感染症や食品安全の問題など課題は山積みである。

白石:FAOは、そのような早急に解決すべき課題に対して、どのような支援をしているのか。

ボリコ:FAOでは、国連食糧計画(WFP)や他の国連機関など様々なパートナーと連携しつつ、科学的知見に基づいた情報・知識を提供している。信頼性の高い情報を世界各地から収集し、分析して得られるデータは多岐にわたる。最近では、国連食料システムサミットの開催に先立って国家間の対話が行われたが、FAOはWFP及び国際農業開発基金(IFAD)事務所と連携してそれをファシリテートした。WFPのレポートによると、2020年4月から2021年4月の約1年間で、アフリカ諸国において、継続的な食料支援が必要な人口の割合は約30%上昇した。新型コロナウイルス感染症の大流行は、アフリカ諸国の食料安全保障に大きな影響を及ぼしている。

アフリカ諸国から見る日本の食料安全保障事情とその課題

白石:アフリカ諸国から次は日本に焦点を当て、わが国の食料安全保障について意見を伺いたい。元FAO駐日連絡事務所長として、7年にわたり日本で指揮を執られ、また名古屋大学で博士号を取得されたこともあり、日本の食料安全保障には非常に見識が深いと思われる。私自身が外務省に勤務していた頃、仕事を一緒にさせてもらったことも多々あるが、当時は食料廃棄が大きな問題とされていたことを覚えている。日本からマダガスカルへと任地が変わったが、今一度日本の食料安全保障について考えたとき、最大の課題は何だと思われるか。

ボリコ:やはり課題の中心になるのは食料廃棄の問題であるように思う。今日入手可能なものが明日も手に入るとは限らないということを、東日本大震災を含む様々な自然災害や新型コロナウイルスの大流行から学ぶべきだと考えている。日本は、レジリエンス(回復力)の強い国であり、さまざまな大きな問題を乗り越えてきたが、その度に食料安全保障に関する問題が議論になっている。FAO駐日連絡事務所長時代は、FAO議連の設立やセミナーの開催、FAO事務局長及び事務局次長の訪問など様々な活動を行ってきた。その中で、「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称 食品ロス削減推進法)が、令和元年5月31日に令和元年法律第19号として公布され、令和元年10月1日に施行されたことは大変喜ばしいこととして見ていた。生産者や消費者、全ての人が食料を捨てないように意識し、持続可能な行動をして欲しい。

食料安全保障において日本に期待すること・国際貢献

白石:国際的にもレジリエンスの強い国として認識されているようだが、続けて、世界の食料安全保障について日本ができる国際貢献について聞きたい。現状、感染拡大の影響で、現地で支援活動をすることは困難であると考えられるが、ポストコロナにおいて(可能な範囲でコロナ禍においても)、どのような支援・協力が期待されているか。

ボリコ:日本は既に、国際社会に多大な貢献をしている。ケニア、コモロ、マダガスカル、セーシェル、モーリシャスの5か国で実施されていて自身との関係も深い、「インド洋アフリカ諸国におけるサンゴ礁漁業に依存する漁業コミュニティの強靱性の向上を通じた生計、食料安全保障及び海上保安の強化計画」プロジェクトへの支援には大いに感謝している[下コラム参照]。日本も新型コロナウイルス大流行を受けて、大変な経済状況であると見受けられるから、これまで行っている支援・国際貢献を続けてもらえれば十分である。

貧しい人々に対してどのような貢献が出来るか。マダガスカルの中でも貧困層の多い南地域を訪問したが、貧しい人々を助けるには必ずしも大きなお金を必要としないことを身をもって経験している。日本を含めた先進国の人々にとっては少ないともとれる金額が、彼らにとっては大きな金銭的支援となり、干ばつなどの気候変動問題や害虫への対応が可能となる。また、日本には農業・食料生産に関する様々な技術や知識が蓄積されている。日本からの支援は、それで学校にいけない子供が学校に行けるようになり、飢餓で困窮している人々を救うことができ、巡り巡ってその国の食料安全保障に貢献することになる。

最近、FAOのスタッフであることに誇りを持てた出来事がある。南マダガスカルにおいて、特定の家族に対し、農家学校(farmer’s school)で気候変動対応型の農業を教えた。彼らは、干ばつで降水量がほとんどない中、習得した技術を使用して食料を生産し続けることができ、さらに、生産した農作物からヤギを購入した。私はこのような小さなプロジェクトを広げることで、大きな効果を得ることができると信じている。特に5歳以下の子供は、必要な時期に必要な栄養を摂取することができないと、後の成長に大きな悪影響を及ぼすことがある。FAOは食料・農業を取り巻く諸課題に対して、それが大問題へと発展しないように、また、問題が発生したとしても、加盟国と協力しつつその被害が最小で済むように支援を続けている。

高校生・大学生へのメッセージ

白石:最後に、これからの日本、世界を背負って立つ高校生にメッセージをお願いしたい。

ボリコ:情報網・交通網の発達により、現在、世界は小さな一つの村に譬えることができる。今回の新型コロナウイルスの大流行は中国から始まったが、世界各国は最初、それを中国だけの問題だと思っていた。欧州においては、イタリアで最初に感染者の拡大が見られた際、他の欧州諸国は積極的にイタリアに対して手を差し伸べなかった。その間に、世界各国でヒトの移動により多くの感染者が出て、現在のような大流行になっている。イラクとシリアで発生したイスラム過激派組織(ISIS)が問題になった時も、当初、日本では遠くで起こっている事と気にも留めない人が多かった。しかし日本人二名がシリア国内で人質となり、日本政府やヨルダン政府の解放へ向けての努力にもかかわらず、相次いで殺害されるという最悪の形で終わった。

リーダーシップを取る際の大きな間違いは、ある問題を他人事として捉え、放置していることである。初めは中国のある特定の地域で発生した新型コロナウイルスによる感染症は、今や世界中に拡大した。リーダーには、一見他人事に見える問題に対しても自分のこととして捉える力が必要である。何とか解決しよう、協力してより良い方向を探ろう。そのようなリーダーがたくさん生まれることで、より良い世界が形成されると信じている。現在の高校生にも、そのようなリーダーとなり、国際貢献ができる可能性は十分にある。

コラム

ケニア、コモロ、マダガスカル、セーシェル、モーリシャスの5か国 サンゴ礁漁業を通して食料安全保障の向上

ナイロビーアフリカの食料安全保障の強化と海上保安の促進を支援するため、FAOは、440万米ドル(4億7500万円)規模のブルー成長イニシアチブに関する共同事業への協定を日本政府と締結した。2019年から3年間にわたるこのプロジェクトでは、インド洋沿岸諸国の漁業従事者約3万人を対象とし、サンゴ礁漁業の生産を改善することが期待されている。また同時に、海上保安や漁業管理等に関する研修等を通じて、対象5か国の漁業従事者約30,000人の知識や能力向上が見込まれている。同支援の詳細は、外務省HPなどで閲覧可能。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_007729.html

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